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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)467号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人石田伊太郎の上告趣意第一、二點について。

原審は、被告人に對する本件の審理において、辯護人から申請した加藤吉松外三名に對する證人訊問の請求を却下して、第一審裁判所が證人として訊問した加藤吉松の供述を記載した第一審公判調書を證據に採用して原判示の賍物寄藏の犯罪事実を認定したこと所論の通りである。

論旨は、(一)原審が加藤吉松外三名に對する證人訊問の請求を却下したのは、證據の取捨に關する裁量権を濫用したものであり、また、審理不盡の違法がある。(二)原審が加藤吉松に對する證人訊問の請求を却下して第一審裁判所の公判廷における同人の供述記載を證據に採用したのは、被告人に證人審問の機會を充分に與えなかった違憲があると言うのである。

しかしながら、(一)事実審たる裁判所が公判において事件を審理するに當って、證據調の限度をいかに定めるかは、裁判官の事件に對する心證の如何による自由裁量の問題である。本件について記録を調べてみても、原審が所論の證據調の請求を却下したことが、論旨に言うように、自由裁量の範圍を逸脱したものとは認められず、また審理不盡の違法あるものとも認められない。(二)所論の加藤吉松は、第一審裁判所の公判廷において證人として訊問されたのであるから、被告人及び辯護人は右の證據調に立會って證人に對して審問する機會を充分に與えられたのである。そればかりでなく、すべての證人に對して審問する機會を被告人に保障した憲法第三七條第二項は、被告人側の申請にかゝる證人のすべてを取調ぶべき義務を裁判所に課したものではなく、裁判所がその必要を認めて訊問を許可した證人について規定したものであることは、當裁判所の判例として示すところである(昭和二三年(れ)第八八號同年六月二三日大法廷判決、昭和二二年(れ)第二三〇號同二三年七月二九日大法廷判決參照。)されば、原審が所論の證人訊問の請求を却下して第一審裁判所における同證人の供述を記載した公判調書を證據に採用したことは憲法に違反するものではないから論旨は理由がない。

よって、最高裁判所裁判事務處理規則第九條第四項、舊刑訴法第四四六條に從い主文の通り判決する。

以上は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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